50代といえば人生の折り返し地点を過ぎ、体力や気力の変化を感じ始める頃。
「定年まで今の働き方を続けるのは、本当に自分の望む生き方だろうか?」そんな疑問が頭をよぎる方も少なくないのではないでしょうか。
巷では「FIRE」という言葉が流行っていますが、「FIRE=早期退職」と決めつける必要はありません。
重要なのは、自分らしい自由な時間を手に入れること。
そのための選択肢として、近年注目されているのが「サイドFIRE」や「バリスタFIRE」といった、柔軟な“ゆるFIRE”という生き方です。
この記事では、FIREの基本概念である「4%ルール」をわかりやすく解説。さらに、野村総合研究所や金融広報中央委員会の最新データをもとに、50代のリアルな貯蓄事情を徹底分析します。
単身世帯と夫婦世帯それぞれの平均貯蓄額と中央値を比較することで、ご自身の現状を客観的に把握し、より現実的なFIRE計画を立てるための第一歩を踏み出しましょう。
さあ、あなたも50代から始める、自分らしいFIREへの扉を開けてみませんか?
1. FIREとは?多様な選択肢と「4%ルール」の基本

FIRE(Financial Independence, Retire Early)とは、「経済的自立」を達成し、早期にリタイアするライフスタイルのことです。しかし、一口にFIREと言っても、その形は様々。ご自身の価値観やライフスタイルに合わせて、最適なFIREの形を見つけることが重要です。
1. FIREの種類:あなたはどのタイプ?
- Fat FIRE(ファットFIRE):
十分な資産を築き、投資からの収入だけで生活費を全て賄うFIRE。質を落とすことなく、リタイア前の生活水準を維持できます。 - Lean FIRE(リーンFIRE):
徹底的な節約により生活費を抑え、必要最低限の支出で生活するFIRE。ストイックな生活スタイルが特徴です。 - Side FIRE(サイドFIRE):
資産からの収入に加え、パートタイムや副業で収入を得ながら生活するFIRE。自由な時間を確保しつつ、社会との繋がりも維持できます。50代にとって最も現実的な選択肢の一つです。 - Barista FIRE(バリスタFIRE):
生活費の一部を、福利厚生が充実した職場でパートタイム勤務することで賄うFIRE。スターバックスのような企業で働くことから名付けられました。社会保険や年金制度を活用しながら、経済的な安定を目指せます。
2. FIREの基本:「4%ルール」とは?
FIREの実現可能性を測る上で重要なのが「4%ルール」です。これは、アメリカのトリニティ大学の研究に基づいたもので、「年間支出の25倍の資産を保有していれば、年4%ずつ資産を取り崩しても、30年間資産が枯渇する可能性が低い」という考え方です。
【4%ルール早見表】
月間支出 | 年間支出 | 必要資産(年間支出 × 25) |
---|---|---|
20万円 | 240万円 | 6,000万円 |
25万円 | 300万円 | 7,500万円 |
30万円 | 360万円 | 9,000万円 |
例えば、月25万円の生活費が必要な場合、年間支出は300万円。その25倍である7,500万円の資産があれば、4%ルールに基づけばFIREを達成できる可能性がある、という計算になります。
ただし、これはあくまでアメリカのデータに基づいた理論であり、日本の社会保障制度や物価水準を考慮する必要があります。より保守的に考えるのであれば、「3.5%ルール」や「3%ルール」を適用するなど、ご自身の状況に合わせて調整しましょう。

3. 日本版FIREでは“ゆるさ”が重要
4%ルールはあくまで目安として捉え、より柔軟なFIREの形を目指すのが、日本におけるFIRE成功の鍵となります。
特に50代からのFIREの場合、完全リタイアではなく、サイドFIREやバリスタFIREといった“ゆるFIRE”を選択することで、経済的な安定を保ちながら、自由な時間を手に入れることが可能です。
2. 50代のリアルな貯蓄事情:平均値と中央値から見える現実

FIRE計画を立てる上で、まず把握すべきなのが、ご自身の現在の貯蓄状況です。ここでは、金融広報中央委員会の最新データをもとに、50代の貯蓄実態を単身世帯と夫婦世帯に分けて見ていきましょう。
1. 50代単身世帯の貯蓄額:厳しい現実
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」によると、50代単身世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)の平均値は約1,391万円、中央値は約80万円です。
【50代 単身世帯の金融資産保有額】
区分 | 金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む) |
---|---|
平均 | 約1,391万円 |
中央値 | 約80万円 |
引用元: 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」
このデータからわかるのは、平均値は一部の高額所得者によって押し上げられており、実際には貯蓄額が少ない人が多いという現実です。中央値が80万円という数字は、多くの50代単身世帯にとって、FIREは容易ではないことを示唆しています。
2. 50代夫婦世帯の貯蓄額:希望の光も
一方、50代夫婦世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)の平均値は約1,147万円、中央値は約300万円です。
【50代 夫婦世帯の金融資産保有額】
区分 | 金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む) |
---|---|
平均 | 約1,147万円 |
中央値 | 約300万円 |
引用元: 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」
単身世帯に比べると、中央値が大幅に高く、貯蓄に余裕のある世帯が多いことがわかります。住宅ローンや教育費の負担が軽減される50代夫婦世帯にとって、FIREは現実的な目標となり得るでしょう。
3. 貯蓄ゼロ世帯も少なくない
注意すべき点として、金融資産を保有していない世帯も一定数存在するという事実があります。同調査によると、50代単身世帯の約34.4%、50代夫婦世帯の約16.1%が金融資産を保有していません。
これらの世帯にとって、FIREは非常にハードルが高くなります。まずは、家計の見直しや収入アップに取り組み、貯蓄体質を確立することが重要です。
3. 富裕層ピラミッドから見るFIREの可能性

野村総合研究所(NRI)が発表した「日本の富裕層に関する調査(2023年)」によると、純金融資産保有額が1億円以上の富裕層世帯は、2021年には148.5万世帯でしたが、2023年には165.3万世帯に増加しました。これは、日本全体の世帯数の約3%に相当します。
【日本の世帯の純金融資産保有額別構成比】
階層 | 純金融資産保有額 | 世帯数 | 構成比 |
---|---|---|---|
超富裕層 | 5億円以上 | 9.0万世帯 | 0.2% |
富裕層 | 1億円以上5億円未満 | 156.4万世帯 | 2.9% |
準富裕層 | 5,000万円以上1億円未満 | 341.8万世帯 | 6.3% |
アッパーマス層 | 3,000万円以上5,000万円未満 | 712.1万世帯 | 13.0% |
マス層 | 3,000万円未満 | 4,241.7万世帯 | 77.6% |
引用元: 野村総合研究所「日本の富裕層に関する調査(2023年)」
注目すべきは、「アッパーマス層」です。純金融資産保有額が3,000万円以上5,000万円未満の世帯は、全体の13.0%を占めています。これらの世帯は、4%ルールに基づけば、ある程度の節約をすればFIREを達成できる可能性を秘めています。
ご自身の世帯がどの階層に属するかを把握することで、FIREの実現可能性をより具体的にイメージできるでしょう。
4. ケース別で見る「50代からの現実的FIREモデル」
それでは、実際に50代でFIREを目指す場合の具体的なモデルケースを見ていきましょう。
4-1. ケース①:50歳・単身女性、資産4,000万円 → Side FIRE
- 月の生活費: 25万円(年間300万円)
- 資産からの取り崩し: 4,000万円 × 4% = 160万円/年 → 月13.3万円
- 不足分: 約12万円/月
- 狙いたい働き方: 週3日程度のゆる稼ぎ
【Side FIRE モデルケース】
収入源 | 金額(月額) |
---|---|
資産からの収入 | 13.3万円 |
副業/在宅ワーク | 12万円 |
合計 | 25.3万円 |
このケースでは、資産からの収入に加え、副業で不足分を補填するSide FIREを目指します。フルタイムで働く必要はなく、自分のペースで好きな仕事を選べるのが魅力です。
4-2. ケース②:55歳・夫婦(子育て終了)、資産5,000万円 → Barista FIRE
- 月の生活費(夫婦): 35万円(年間420万円)
- 資産からの取り崩し: 5,000万円 × 4% = 200万円/年 → 月16.6万円
- 不足分: 18.4万円/月
- 働き方: 週2~4日程度のパート勤務
【Barista FIRE モデルケース】
収入源 | 金額(月額) |
---|---|
資産からの収入 | 16.6万円 |
パート収入 | 18.4万円 |
合計 | 35万円 |
このケースでは、資産からの収入に加え、パートタイムで働くBarista FIREを目指します。夫婦2人とも働くなら週2日、1人なら週4日程度の勤務になり、自由な時間を確保しつつ、社会との繋がりも維持できます。
また、社会保険に加入することで、医療費や年金などの保障も得られます。
5. なぜ50代からFIREに取り組めるのか?5つの理由
50代からのFIREは、決して無謀な挑戦ではありません。むしろ、以下の5つの理由から、50代こそFIREに最適な年代と言えるでしょう。
- 子育て・住宅ローンなどの負担軽減:
多くの場合、子供が独立したり、住宅ローンを完済したりすることで、経済的な負担が軽減されます。 - 公的年金の見通し:
65歳から受給できる公的年金の金額が具体的に把握できるようになり、老後の資金計画を立てやすくなります。 - 心身のストレス軽減:
長年の会社勤めによるストレスから解放され、心身ともに健康的な生活を送れるようになります。 - 豊富な社会経験:
会社員として培ってきたスキルや経験は、副業や起業に活かすことができます。 - 人生後半への意識:
「これからの人生をどう過ごしたいか」という意識が高まり、自由な暮らしを求める気持ちが強くなります。
これらの理由から、50代は「完全リタイア」ではなく、「ゆるく続けられる働き方」を選択することで、経済的な安定を保ちながら、充実した後半人生を送ることが可能です。
6. スモールステップで始める50代からのFIRE戦略
FIREは、一朝一夕に達成できるものではありません。以下のステップを踏み、着実に準備を進めていきましょう。
- 家計の見直し:
固定費の削減やローンの繰り上げ返済など、支出を減らす努力をしましょう。 - 資産運用の最適化:
日本の低金利を踏まえ、国内外の株式や債券、不動産など、分散投資を行いましょう。 - ゆる副業スタート:
まずは、クラウドワークスやスキルシェアなどで、月3万円程度の収入を目指しましょう。 - 保障と年金設計の確認:
社会保険や年金の受給額、受給開始時期などを確認し、FIRE後の生活設計に役立てましょう。 - 定期的な見直し:
半年に一度、または年に一度、資産状況や収支状況を確認し、FIRE計画を修正しましょう。
7. まとめ:50代からの“自分らしいFIRE”は、決して遅くない

50代からのFIREは、決して夢物語ではありません。
- 4%ルール で必要資産のイメージをつかみ、
- 単身・夫婦別の平均貯蓄データ で自分の状況を客観視し、
- サイドFIRE/バリスタFIRE のシナリオで今後の暮らしをリアルに想像し、
- スモールステップ から始める戦略で無理なく自由を増やしましょう。
今日からできることはたくさんあります。まずは家計簿を見直したり、興味のある副業について調べてみたりするだけでも、大きな一歩です。
50代からでも、仕事も自由時間も大切にしながら、自分らしい後半人生を手に入れることは十分に可能です。さあ、あなたも今日から、自分らしいFIREへの道を歩み始めましょう。
【免責事項】
この記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の推奨や投資助言を目的としたものではありません。FIREに関する意思決定は、ご自身の責任において行ってください。必要に応じて、専門家にご相談ください。